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特別講座 #1「復興を設計する」

2011.06.16

6月11日(土)せんだいメディアテークにて特別WS「復興を設計する」を開催しました。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻のSSD担当教員である、五十嵐太郎教授、石田壽一教授、小野田泰明教授、本江正茂准教授、堀口徹助教による講演とテーブルディスカッションを実施しました。



まずは本江先生による趣旨説明。東日本大震災より3ヶ月め。例を見ない規模の震災とその被害の全貌は未だ明らかになっていません。B.ラファエル「災害の襲うとき」(みすず書房)は被災者のメンタリティを4つに区分しました。まず呆然とする最初の数日を「茫然自失期」、被災者間の連帯と希望を感じる数週間を「ハネムーン期」、その後高揚感を失い現実と向き合い憔悴する数ヶ月を「幻滅期」、そしてそれ以降を「再建期」。我々はいま「幻滅期」にいます。この「幻滅期」を越え、これからの「再建期」に向けて、この特別講座が、当事者である我々みんなで「復興にむけて何をリデザインするのか?」を考えるきっかけになればとのことでした。

SSDが「建築」を拡張するべき5つの軸、すなわち「メディア軸」「環境軸」「社会軸」「コミュニケーション軸」「国際軸」からそれぞれ復興への課題を述べて頂きました。

メディア軸は五十嵐太郎先生です。五十嵐先生は今期の「S-meme」にて記憶や歴史にフォーカスした「文化被災」をテーマに取り上げるそうです。その上で以下の3つの切り口をあげて下さいました。

1つめは「被災者が語る文化」です。
まず気仙沼リアスアーク学芸員の山内さんをお招きし、急進な復興への不安や、子や孫への文化の継承についてお話を伺うとの事でした。山内さんは2年前に津波の恐ろしさを題材とした展覧会を企画したものの当時は興味をもたれなかったそうです。さらには過去の巨大津波を訴えていた郷土史家の飯沼氏や、被災者であり作家でもある志賀理江子さんも取り上げたいとのことでした。
2つめは「文化施設と震災」です。
もともと文化施設として計画された「リアスホール」の避難所としての許容力や、UFOのような造形が津波からコレクションの被害を防いだ石ノ森章太郎漫画館、津波に耐えたサンファン館のバウティスタ号など。
3つめは「記憶を継承する」ことです。
五十嵐先生が実際に足を運び、目の当たりにした風景、とりわけ陸前高田の爆心地のような風景、女川の倒壊したRC造の建物群、大槌の破壊された橋脚、宮古田老のスーパー堤防などを紹介して下さいました。ハードが防災のすべてではなく、ソフトでまちを守らねばならない。したがって文化の継承が重要であるとの事でした。

環境軸は石田壽一先生です。
石田先生は東北大学で会議中に被災し外部からのインフラがなくなると何もできなくなるという事を身を以って感じたそうです。また2011年の環境軸では洪水(内水氾濫)弾力都市をテーマとしたいとのことでした。

石田先生は都市のインフラの可能性を拡張するべきではないかとこれまで考えてきたそうです。ロジスティクスに大きな費用がかかり単機能で転用ができないグレイインフラから有機的な機構によるグリーンインフラへのシフトを提案して下さいました。環境軸では実際に近代以前の水系として四ツ谷用水による長喜城に至る河岸段丘による有機的水供給システムを2010年に調査しました。この河岸段丘システムは他の政令指定都市と比較しても非常に特徴的なのだそうです。しかしこれは明治以降の近代化で失われていきました。この江戸時代の持続的で生活に密接した灌漑水系こそが未来の都市インフラのヒントになるのではないか。また熊本のサイホンによる水路「通潤路」や大分の石積みによって美しい流水をつくる「白水溜池」を紹介し、単に生産緑地としてのみならず環境造形としての水系の価値を指摘して下さいました。
311以降はインフラのハードウエアの想定値を問題視ししたそうです。例えば元々水面以下に国土を持つオランダ発のアンフィビアスリビングなどを日本に応用できないか。またヨーロッパではスマートグリッドなどを利用するなどしてエコロジーとエコノミーとを合致させているそうです。さらには様々なコラージュから常時と非常時が混在できるような都市空間を提案して下さいました。最後には東北大学の土木実験棟で計画した様々な雨水利用の試み(災害時も含む)を紹介して下さいました。

社会軸の小野田先生は釜石の復興計画のため残念ながら会場に来れずビデオレターでのプレゼンテーションでした。

小野田先生は被災地のさまざまな復興にむけたプロジェクトを科学的合理的に専門家の意見を聞きながら整理していく「復興のプロセス地図」をつくれたらと考えているそうです。
また民間のボランティアの人たちがつくった釜石市の「復興の狼煙 ポスタープロジェクト」を紹介し、これが被災地の雰囲気をつたえる優れた作品であるのみならず、復興のサポートプロジェクトが備えるべきポイントを備えているのではないかと指摘して下さいました。そのポイントとは、1つめは現場に済む人々が主役であること、2つめはプロによる技術によって高い質を備えていること、3つめは支援の仕組みが非常にスマートであること、とのことです。
「復興の狼煙」ポスタープロジェクト → http://fukkou-noroshi.jp/

コミュニケーション軸は本江正茂先生です。本江先生は今回の震災によって露となったコミュニケーションの問題として「とげ」「アーカイブ」「モニュメント」の3つのキーワードを提示して下さいました。

震災後、講演などで非常口を確認するようになったこと、「見るのがつらい人は自由に退室してかまわない」との断わりが見られること、「津波の話題は避けましょう」という小学校の注意、などといった「ちいさなとげ」として、私たちみんなが津波や地震被害とは異なる仕方で被災していることを指摘して下さいました。
また「アーカイブ」の問題として、アーカイブされた沢山の資料をどのように使っていくのかにアイデアが必要であるとし、アンアーカイブ、発掘、探検、プレイ、など「アーカイブの反対語」のデザインが求められるのではないかと指摘して下さいました。
3つめは、ヒロシマの広場のような都市施設ではなく、個人のための小さな「モニュメント」の重要性を指摘し、リマインダ、ポストイット、指にまいたひも、などとして我々がデザインすべきものは拡大されるだろうとのことでした。

国際軸の堀口先生は雄勝町の復興計画のため不在でしたので本江先生が代読しました。グローバルな問題は常にローカルな問いとして現れます。雄勝町で今まさに進む復興へむけたプロジェクトも例外ではないでしょう。

5軸のプレゼンテーションを受け、ワールドカフェ形式でテーブルごとに先生を交えたディスカッションをしてもらいました。


以下、テーブルごとのディスカッションの内容を簡単に紹介します。
•阪神淡路大震災後に蛇口のオンオフが上向きから下向きに変わったように、地震によって常識が変わる
•アーカイブ(2次情報)とレコード(1次情報)の違い。現地の人はその切り分けが難しいのではないか。
•当事者が復興のイメージをどれだけ共有できるのか。またそれはスケールによって違う。
•目標を設定してアーカイブするのが大事では。体験として残していくにはどうすればよいだろうか。
•「リマインダー」がキーワード。四川大地震は街そのものがモニュメントとなり観光地化している。それは日本では難しい。ヒロシマの記念公園もかつては別な用途(住宅地?)であったらしい。また被災地ではないがローマは遺跡が面的にかつ生活の中に残されている。「ノアの方舟」のように伝承として、あるいは祭りのようなイベントとして残すとよいのでは。
•目の前にあるものは一生懸命片付けていたが、それが一旦片付いた今、長期にわたる仕組みづくりが大事かと。行政と住民のあいだで第3者としてSSDやデザイナーに可能性があるのでは。
•コミュニティや産業について日常生活を取り戻すための「復旧」がまだ足りないのでは。
•産業についての言及がないのが気になった。高齢化のすすむ限界集落の産業のリデザインは可能であるか。
•横浜など他地域からの参加者があった。
•人間こそデザインされるべきでは。岩手の「てんでんこ」のように教育が大事では。
•トップダウンではないボトムアップの復興計画が求められるのでは。残されるべきハードの評価基準は?
•アーカイブやモニュメントは過去形。現在進行形の問題に。領域横断的なプロデューサーが求められるだろう。
•5軸のようなそれぞれのトピックを統合したマスタープランをいかに描くか。それを行政だけでなく個人から発信している人もいる。また三陸への復興のみならず福島浜通の複合災害への復興に対する仙台の地政学的位置について。
•合意形成の方法がスケールによって難しい。情報のデザインが大事。
またディスカッションで使ったメモを以下に公開します。
0611A.pdf[pdf:4.8Mb]
0611B.pdf[pdf:4.9Mb]
0611C.pdf[pdf:4.6Mb]

今回、せんだいメディアテークの「考えるテーブル」企画の黒板家具を借用させて頂きました。

考えるテーブル → http://www.smt.jp/thinkingtable/

また会場では完成したばかりの2010年度成果報告書と話題の激レアS-meme#1を展示しました。


以上、地域の復興にむけて考えるきっかけとなるWSだったのではないでしょうか。
(阿部)

ムービーはこちら
http://cat-vnet.tv/category120/123/123_001/123_001_0001.html

1)講義内容について
「復興を設計する」
日時:6月11日(土) 14時~
講師:五十嵐太郎+石田壽一+小野田泰明+本江正茂+堀口徹[東北大学大学院工学研究科都市建築学専攻/SSD担当教員]
内容:レクチャ、テーブルディスカッション、発表
2)次回講義について
「科学技術を理解する」
日時:6月18日(土) 13時~
講師:渡辺保史[北海道大学大学院地球環境科学研究院上級コーディネーター ジャーナリスト/プランナー]
場所:東北大学青葉山キャンパスセンタースクエア中央等DOCK

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