メニュー

Archive

特別WS #4 「歴史を伝承する」

2011.07.22

足立裕司先生と後藤治先生をお招きする特別WS「歴史を伝承する」を東北大学工学部青葉山キャンパスセンタースクエア中央棟DOCKにて7月18日(月祝)に実施しました。


建築史学、文化財保存学についてのエキスパートであり、1995年の阪神淡路大震災の折に神戸大学で教鞭をとられていた足立先生、文化庁で文化財調査官として活躍されていた後藤先生の、文化財保護に尽力されていたお二人に今回私たちが体験した震災における文化財、歴史の保護と継承について、阪神淡路大震災後の活動の経験から学べること、また違うところについてお話いただく機会となりました。


まずは今回の司会を担当された野村先生から全体の趣旨を説明いただきます。より良く未来を作る、そして一旦衰えたものを再び盛んにするという「復興」という言葉の中に含まれる過去と未来をつなぐイメージからは、まさに「歴史を伝承する」という行為の、未来のために過去をどう扱うか、過去の取捨選択が問われていくという姿勢を導きだせます。過去を取り扱うのに様々な姿勢があり、例えば岩手県陸前高田市にある一本松は津波で甚大な被害を受けた陸前高田の地域での<復興のシンボル>として、宮城県南三陸町の防災対策庁舎は<防災モニュメント>として、過去を未来へのシンボルとして保存していこうという活動があり、過去を何とか記録しようという行為が色々な場所で見られます。その一方で過去の取り扱いは「ただ残せば良い」という単純な話ではなく、あるアンケートでは津波被害を受けた土地の住人の六割がその場所を離れたい、その土地の記憶を早く忘れたいと希望しているという結果もあります。また、残したいものを物理的に保存していくための法制度、所有者の意向、行政組織、保存修復の技術・システムなどの物理的な方法の問題も多く待ち構えています。未来のために記憶=記憶の器となりうる可能性をもった存在(例えば建築)の取捨選択を、私たちはどうこなしていけば良いのか。


足立先生は神戸大学で震災に遭われたことから「16年前に私の人生は変わった」と言われるほどこの16年間災害について考えてこられたそうです。神戸大学の他にも、阪神大震災の後に立ち上げられた日本建築学会文化遺産災害対策小委員会という組織にも所属してこられ、特に指定文化財ではないけれども名建築と言われる未指定建築物をどう保存していくかを考えてこられました。指定文化財である建築物はある意味で放っておいても国が責任を持つ範疇にあるので保存のための動きが起こりますが、そうでない未指定の建物では対応を間違うと所謂「赤紙」が貼られる事によって所有者である個人は諦めの気持ちになってしまい取り壊しの流れに乗ってしまう傾向にあり、残るものと残らないものの線引きがここでかなりはっきり引かれる事になります。実際は応急危険度判定であるこの「赤紙」の及ぼす影響は大きく、未指定の建物に対して被災直後にどのような対応をとるかについて、地方の文化財セクションこそが率先して確立していかなければなりません。また地震などの被害についてはある程度考えられてきた事でも、今までは津波の事までは想定に入っておらず、建物が根こそぎ流されるような被害への対策は新たな課題となりました。また、建物単体で残すだけでなく、歴史的なものを含み込んだ、日常的で何でもないようにさえ見える地域全体を継承していく事も重要です。個人が持っている財産をいかにに共有財へ押し上げていくか。何にしろ復興基金のような後押しはとても重要です。


後藤先生は、具体事例として気仙沼の網元の民家である尾形家のお話をしてくださいました。今回の震災では公的に自分が出来る事は無いかもしれないと思われていたそうですが、震災前から関わっていた尾形家の保存を巡る活動で、今回の震災での歴史的建造物保存の動きに関わっているそうです。尾形家は約200年前の立派な民家で、大漁になってお金が入ると家をどーんと建て替えることが多く残りにくい網元の民家としてはとても珍しい例です。明治の津波でもチリ地震での津波でも昭和の津波でも生き延びてきた民家でしたが、今回の津波では、津波とその引き潮によって元あった場所から約百メートル移動する被害を被り、屋根だけがその形をとどめました。茅葺きの屋根が、三月の雪を残していたこと、津波を被って濡れていたことで燃えずに残り、また行方不明者の捜索のために取り壊さなければならない危機も、屋根の小屋組は残っているので何らかの方法で穴さえ開けられれば中は空洞なので入って捜索ができることをたまたま情報の伝達が上手くいって自衛隊の方に伝える事ができて取り壊しの危機を免れる事ができ、またこの屋根をレプリカを作る事で歴史民族博物館に収めようとしていた動きとも合致して、屋根をそっくりそのまま歴史民族博物館に移し残すという動きにおさまりました。昔のものを残す、しかもそれをより安全なものとして実現させる、その重要さをについてお話いただきました。


レクチャー後のディスカッションを経た質疑応答では「残すべき価値って何なのか」「先生方は文化財として残したいと思う建物を所有されている個人の方々にどのように寄り添っておられるのか」「民間での文化財保存の動きはどうなっているのか」「誰の、何のために『良い』と思うものを残すのか、『良い』とは誰の価値観をもとに言うのか」などの質問が飛び交いました。まさに冒頭提示された、復興、未来のために過去をどう扱うか、未来のために記憶=記憶の器となりうる可能性をもった存在、例えば建築の取捨選択を、私たちはどうこなしていけば良いのかについて、考え込むレクチャーとなったように思います。(斧澤)
(参考)ディスカッションのメモ
http://sendaischoolofdesign.jp/wp-content/uploads/2011/08/110718-1.pdf

1)講義内容について
テーマ:歴史を伝承する
日時:7月18日[月祝]13時〜
講師:足立裕司[神戸大学大学院工学研究科建築学専攻教授]
後藤治 [工学院大学工学部建築都市デザイン学科教授]
司会:野村俊一[東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻助教]
内容:レクチャ+ディスカッション+質疑応答
場所:東北大学青葉山キャンパスセンタースクエア中央等DOCK
2)次回講義について
テーマ:地域を再興する
日時:7月23日[土]13時~
講師:戸田公明[大船渡市長]
塩崎賢明[神戸大学大学院工学研究科建築学専攻教授]
司会:小野田泰明[東北大学工学研究科都市・建築学専攻教授]
場所:せんだいメディアテーク1Fオープンスクエア

メニュー