2011.10.02
2011年10月1日(土)、東北大学工学研究科中央棟DOCKにて、2011年度春学期成果発表会が開催されました。
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東日本大震災の影響を避けられない環境下で開講された2011年度春学期成果発表会の始まりにあたり、東北大学工学部都市建築専攻 植松康専攻長より、ご挨拶頂きました。
「先生方が以前より取り組んでいた国際ワークショップなどが認められて、SSD開講につながったと思っています。将来的な発展のためにSSDは起爆材となると思います。優れた成果をたくさん出していただきたいと願うとともに、私の専門である建築構造分野を分かりやすく表現をして社会還元をするためにSSDとのコラボレーションができたらと思っています。」と今後のSSDへの期待を寄せて頂きました。
続いて、仙台市経済局長 高橋裕氏よりご挨拶頂きました。
「先日、仙台市震災復興計画(中間案)の発表を行いましたが、最終的に案をまとめる際に、文字で伝えられる情報の限界をデザインすることにより超え、共有できる可能性を感じています。」と激励の言葉を頂きました。
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安東陽子氏記念講演
小野田先生から多くの建築家にテキスタイルを提供し、コラボレーションを切望されているデザイナーであると紹介があり、安東さんにご自身の作品を紹介して頂きました。布の素材感が好きで入ったNUNOという会社は、オリジナルテキスタイルのデザイン・生産・販売を一貫して行う会社で、始めはデパートでの販売職に就き、直に顧客やデパートの社員の反応を感じ取りながら、「布」に慣れて行き、六本木のショールームへ異動となった際に、建築家と仕事をするきっかけが生まれた経緯についてお話を伺いました。
最初に建築空間でのテキスタイルを手がけたのは、すみだ生涯学習センター(長谷川逸子氏設計)の会議室のカーテンで、現場で布地がショールームで見るのとは違い、空間を変えた瞬間を目の当たりにして感動したというのが、販売だけでなく、インテリアの仕事に興味を持ったきっかけだったそうです。
その後、「ルイ・ヴィトン表参道ビル」ホール、「白い教会(ハイアット・リージェンシー・オーサカ)」スタジオ(設計:青木淳建築計画事務所)、「せんだいメディアテーク」「多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)」「まつもと市民芸術館」「SUS福島工場社員寮」(設計:伊東豊雄建築設計事務所)、「高橋内科クリニック」(設計:アトリエワン+長岡勉)、「JIN’s GLOBAL STANDARD 青山」(設計:中村竜治建築設計事務所)、「公立はこだて未来学」(設計:山本理顕設計工場)、「国営昭和記念公園花みどり文化センター」(基本構想:鈴木雅和+貝島桃代、緑の文化施設ゾーンセンター施設設計:伊東・クワハラ・金箱・環境エンジニアリング設計共同体)、「上馬M邸」(設計:藤原徹平)、「下関市川棚温泉交流センター」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)、「当間高原リゾートベルナティオ la Sala/FIORIA」(設計:鹿島建築設計統括グループ)などでのコラボレーションを紹介して頂きました。実際に使用したテキスタイルのサンプルや、講演会場であった東北大学DOCKの間仕切りを実際に使用したり、安東氏の作品に直接触れつつ、お話を伺う貴重な機会でした。
また、今回の震災にあたり、洗濯ばさみなど手に入るものとテキスタイルで、気配を感じつつプライバシーと安心感を両立させた間仕切りを避難所に作った際には、メディアテーク二階のカーテンを作った時にオーガンジーを二枚重ねると、透明度が変えられることが分かった経験が役立ったとのことでした。
安東氏は一番始めに打合せには何も持たずに臨み、話をして、空間を見てから、デザインをすることにしているということです。「毎回、条件が違って、分からないこと、可能性、難しさがある。絵に描いたものが生地になっていく、その過程が面白い。これからも生地を中心に仕事をしていく。」と明るく語っていたのが印象的でした。
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2011年度春学期の成果発表として、校長の本江先生より、復興に向けて、まずいろいろな知識のある人から学びながら、地域の人と議論を交わしましょうという糸で、連続ワークショップ「復興のリデザイン」を、迅速に対応しなければならない事項に対応するプロジェクトとして、「アジャイルリサーチプロジェクト」(ARP01 災害のデータスケープ、ARP02 「S-meme02」文化被災特集、ARP03 建築家による復興支援活動の研究)という科目を開講したと報告がありました。「復興のリデザイン」は一般の方々も交えて、全9回の連続講義となり、震災からの復興の創造的なプロセスを生み出すことを目的としました。
ARP01は、防災というのは、一般の人の意識に訴えることが必要ですが、論文などでは理解し難い。情報がデザインし分かりやすい図として表現しました。こうしたインフォグラフィックスという分野は日本では未発達でありますが、ARP01をきっかけにインフォグラフィックス研究会を立ち上げたことも成果と言えるでしょう。
ARP02は、文化被災というテーマにもとづき、読むほど被災感が増す特殊なデザインの本を制作しました。市販では成立しないインタラクティブな製本は、前衛的な投げかけになったのではないかと思います。
ARP03は復興支援活動を「価値付ける」ことを目標としました。人口・世帯数と相対的に被害を比較したり、独自のリサーチで成果や問題が浮かび上がるようにしました。支援が必要な場所に届くようにするために、ニーズとマッチングがやはり大切で、これから続く支援活動、また次の災害、これからの10年に役立つリサーチであると思います。
そして、環境軸担当の石田先生より、「SSDの活動拠点をを復旧することに従事しつつ、応急復旧から本格復旧に入る半年を迎えた時期にoptimiseではなく、resilienceな対応で、予見ができない状況が続く中で、SSDの今後を考えるうえで大切な半年間だったと思います。」と半年を振り返る挨拶をしました。
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続いて、名前を読み上げられた15名の修了生に修了証が授与された後、仙台市産業振興課長 天野元氏より「仙台市で復興計画をまとめるにあたり、行政が通常考える10年スパンで計画では対応できない、1000年に一度の津波、木造やコンクリートの建物の寿命、インフラや防潮堤の時間軸が異なっていることが問題になっています。コミュニティを大切にし、文化による防災、津波の伝承、祭りの継承、などいろいろな時間軸の違うフィールドで考えないとならない現状にSSDの多規範適応型の修了生が活躍する場所になると思っています。期待しておりますので、がんばってください。」とご挨拶頂きました。
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最後に、2011年度秋学期受講説明会が行われ、閉会となりました。