2012.03.22
2012年3月20日(火・祝)、せんだいメディアテークにて2011年度秋学期成果発表会が開催されました。
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まず、東北大学大学院工学研究科長 内山勝氏より「震災により多大な影響を免れなかったSSDですが、高いモチベーションを持った受講生を得て、こうしてここに成果を発表できることは大きな喜びです。」と挨拶を頂きました。
続いて、仙台市経済局長 髙橋裕氏より「震災復興に向けて、これからのまちづくりは元の姿に戻すということではなく、SSDで培ったデザイン力をさらに高めて、東北の復興に役立てて頂きたい。」とご挨拶を頂きました。
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そして記念講演に先立ち、本江先生より、デザイナーの原研哉氏の紹介がありました。原氏は、HOUSE VISIONという日本の住文化を世界に広める活動や、exformation(知ったつもり、分かったつもりになっていることを、もう一度「それはなんなのか」考えて、本質的なものにアプローチをする)という活動をされていらっしゃいます。本江先生によると、SSDの基本的な姿勢と重なるところも多く、領域を超えて活動されているので、ずっとお呼びしたいと思っていたそうです。
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原研哉氏記念講演
<EMPTINESS Accessible Environment 受容する環境>
最近、産業の可能性を可視化していくことが仕事なのではないかと思っています。文化の本質はLocalにあり、それをGolbalの文脈にどう乗せていくのかということが問題で、日本のことを理解していないと国際的足り得ません。
古来より日本人は自然の力を神様だと思っていました。神様はどんな小さなところにでも宿っているので、四本の柱で囲む「代」を作れば、そこに神様が入って来るかもしれないと期待しました。そして、そこに屋根がかかった「屋代」というのがもとになり、神社ができました。また、伊勢神宮のように決められた年に建て替えを行う遷宮は、更新の度にわずかに起きる誤差を受け入れる寛容さがあり、それがクリエーションのベースになっています。さらに、コミュニケーションの大半も、言葉を交わすよりもアイコンタクトで伝えらるかということだと思います。
中央を空にしておくことで、いろいろな意味を入れられて、融通が利くのです。例えば、ただ丸い赤である日本の国旗は多様に解釈することができるのです。
<シンプルとエンプティの違い>
世界は力の表象であった複雑さから始まりました。いろいろな装飾が隙間なく施されているほうが力を持っているということを表していたのです。西洋では王様の時代が終わって近代社会になり、人間とものの距離は最短距離になりました。西洋では150年程前にようやく出て来た「簡素」という考えに、なぜ日本はなぜもっと前からにたどり着いていたのでしょうか。
地理的な観点で見ると極東にある日本は、世界のあらゆる文化の受け皿になっていました。ところが、応仁の乱が起きて、以降10年間、京都が焼き付くされました。その何もなくなってしまったところに、新しい文化が生まれたのです。
そのころ始まった侘び茶というのは、何もない空間にゲストとホストだけがいるという精神性を追求した空間で行われます。空っぽなので、豪華絢爛な装飾がなくても、小さな造作でイマジネーションを共有できるのです。
シンプルとエンプティの違いを分かりやすく説明すると、前者はヘンケルスのナイフで、後者は和包丁です。ヘンケルスのナイフは人間工学に基づき、綿密に研究・リサーチした握りやすい形状をしていますが、和包丁はいろいろな持ち方ができます。そして、僕はエンプティネスを目指しているのです。
無印良品のディレクションも、同じようにエンプティです。いろいろな解釈を受けているけど、全部引き受けて目を合わせてうなずくというようなスタンスです。それは、流行から距離を置くということにも繫がります。
それから、禅寺がきれいなのは、よく掃除されているからです。僕の仕事も「掃除」すること。良く掃除された何にもない空間は、人の心を動かすものです。
<日本らしさ>
最近は、日本をどう作り直すか。に興味があります。これだけ豊かな自然や文化を持っているのだから、観光を本気で考え直す必要があると思います。特に国立公園をどうやって情報化していくことに興味があります。
以前、アート 瀬戸内の仕事で、それぞれの島々の情報をipadや iphoneで歩きながら取り出せるようなシステムをデザインしました。来場者に能動性を与えるためのデザインです。
また、ホテルは芸術の総合であり、そこにはホスピタリティなど日本人が得意とする分野だと思います。日本の美意識「エンプティ」をどう使っていけるか、それをどうグローバルの文脈に乗せるか、が鍵ではないでしょうか。
<21世紀におけるテクノロジー>
ハイテクノロジーと自然は、20世紀においては対立するものでしたが、さらに進化すれば、境界がなくなっていくと思います。
事例1:
TOKTO FIBER SENSEWEAR展
日本の先端繊維は、洋服ではなくて人工血管や航空機の中など、日常生活では見えないようなところで使われているので、それらを展覧会としてビジュアライズしました。いかにも日本という展示物はなかったのですが、繊細、緻密、清潔という日本の美意識が日本らしいという評価につながりました。
事例2:
Japan CAR展
坂茂氏と二人で企画した展覧会です。7社の日本メーカーが参加し、パリとロンドンのサイエンスミュージアムで行われました。容積を優先した日本の車は、ヨーロッパがもっとも優先させてきた空力を無視した形状ですが、パーソナルモビリティをどう変えていくのかという点において日本は最先端です。軽トラックも誇るべき日本の車だと思ったので、わざわざ購入して展示しました。
提案1
東北から未来のアイディアをかんがえる
情報の循環モデルを作り出すことを提案します。いろいろな人が都市モデルを提案をする場があると、たとえ全く現実味がないようなアイディアであっても触発されることがあるかもしれません。東北に長期ビジョンがあれば、東北モデルができ、世界に影響を与える情報の仕組みを作ることができると思うのです。
提案2
House Vision
家というのは、いろいろな産業が交差している場所です。移動の問題、エネルギー問題も含んでいるし、家電が複合化して家となるかもしれません。経済が右肩上がりのときは、家は「不動産」でしたが、最近は「家」のかたちが見えて来ました。また、アクティブで貯金がある高齢者が増えていますし、子どもを育てるための「家」だけでなく、様々な「家」のかたちが出て来ると思います。こうやって住宅リテラシーが広がっていくようなビジョンを作ることが私の仕事だと思っています。
私は、今の社会は集合知の社会じゃないかと思います。その意味に置いて、知恵(アイディア)はふんだんに示されるべきだと思います。たとえ、けしからんアイディアだったとしても、それに触れることも未来を作ることになるのだと思います。はまらないパズルのピースであってもたくさんあるほうが良いです。そして、だれでもアクセスできるように編集していくことが大事です。
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記念講演の後は休憩を挟んで、メディア軸、環境軸、コミュニケーション軸、国際軸、ARP04、Futureラボ1、Futureラボ2の発表を行い、小野田先生より「初めの年度は、デザインと建築をいかに結ぶかという課題に向かっていった年でしたが、今学期では、デザインと建築は違うということを認識した上で、違いを共有してチームの一員として参加している、方法論として定着していると思いました。どうやってつないでいくかが次学期の課題だと思います。例えば、スタジオを超えたコラボレーション、修了生とのコラボレーションなど含め、アイディアの実行の段階だと思います。」と総括を頂きました。
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その後、修了証書授与式が行われ、修了生に証書が授与され、講師や受講生同士、なごやかに談笑し、2012年度秋学期は修了しました。